「孫にも衣装」の意味
音や意味は知っていても、実際の漢字はよく知らなかった、という古いことわざの一つに「“孫”にも衣装」がある。
音の響きで覚えていた「マゴにも衣装」の「マゴ」を、てっきり先入観で「孫」だと思っていた。
ことわざの意味自体は、「どんな人間も身なりさえしっかりすれば立派に見える」ということだと知っていたので、漢字と意味を脳内で強引に結びつけ、「まだ幼い孫でも、ちゃんとした服を着せると、もう立派な大人だ」という七五三的な映像を思い浮かべていた。
孫にも、衣装?
これが、僕の頭のなかで出来上がっていた「孫にも衣装」の想像図である。
もちろん、実際は間違いで、正確には「孫にも衣装」ではなく、「馬子にも衣装」と書く。
馬子とは、今では聞き慣れない言葉だが、「馬を引いて荷物や人を運ぶ職業の者」を意味する。
浮世絵に描かれている馬子
当時、馬子という職業は、身なりが悪く、みすぼらしい、というのが自明のことだったのだろうか。
身分が低かったようなので、馬子のような人間でも、衣装さえしっかりすれば立派に見える、ということから生まれたことわざなのだろうが、現代から見ると、結構差別用語的な表現なのかもしれない。
いずれにしても、「馬子にも衣装」は決して褒め言葉ではないので、使うときには注意が必要だろう。
結婚式の挨拶で、「ええ、馬子にも衣装、と言いますが」と言ってドレスなどを褒めようとするのはだいぶ失礼になる。
靴とベルトはカフェオレ色であわせている。たいして育ちなどよくないのだが、馬子にも衣装とはよくいったもので、小塚老人仕込みの格好をするとおれでさえどこかの御曹司に見えた。
出典 : 石田衣良『波のうえの魔術師』
また、「孫にも衣装」だと思い込んで、上司のお孫さんに「マゴにも衣装で可愛いですね」と言っても失礼に当たる。
