詩人の映画『パターソン』|あらすじと感想
*文中に内容のネタバレを含む。
あるノーベル賞作家の詩人が、詩集のあとがきで、詩人の映画というのがあれば特にドラマ性もないだろう、といったことを書いていた。
確かに、詩人が主人公の映画というのはあまり聞かず、もし詩人の物語を読むなら伝記や自伝など書籍のほうがよいかもしれない。
しかし、そのなかでも、決して大きなドラマのない詩人の日々を静かに美しく描いている映画が、『パターソン』である。

この映画は、アメリカ、ドイツ、フランスの合作で、二〇一六年公開、監督はジム・ジャームッシュ。
日々の出来事を詩にしたためる、バス運転手パターソンの物語だ。
あらすじ
舞台はニュージャージー州のパターソンという街。街と同じ名前のバス運転手パターソンの朝は、妻ローラと愛犬マーヴィンと一緒に静かに始まる。
彼は早朝の街を歩き、仕事場に向かう。その道すがら、あるいは仕事の合間に、日常を綴った詩を考え、書き留める。
バスの運転をしている最中、街の住人たちの声に耳を傾ける。それから、また休憩中に詩の続きを書く。
妻のローラは、自由奔放でちょっと変わった感性を持ち、インテリアや料理などの趣味を堪能する。
パターソンが仕事から帰ると、ローラと夕食をとり、マーヴィンと散歩に出かけ、通い慣れたバーに立ち寄り、帰宅後はまた家族で眠りにつく。
何気ない日々のなかで、街の人々との交流もある七日間を切りとった詩的な物語。
ラストシーンでは、通りすがりの日本人(永瀬正敏)と詩について会話し、家に戻り、再び月曜の朝を迎える。
感想
展開が巡るドラマティックな物語を期待するなら、この映画は退屈に感じるかもしれない。
それほど大きな物語は起きないが、その代わりに、作品全体が、映像や音楽も相まった一編の詩のようだった。
合うひとには、とても合う作品だと思う。
作中にパターソンの作品として登場する詩は、ロン・パジェットという詩人が実際に書いた作品で、一部は既発表の詩集から、一部はこの映画のために新作を書き下ろしたという。
この詩が、映画の雰囲気にぴったりで、映像のトーンや音楽含め全体の統一感が素晴らしく、温度感が馴染むようならぜひおすすめしたい映画だ。
作品情報
監督 | ジム・ジャームッシュ |
脚本 | ジム・ジャームッシュ |
メインキャスト | パターソン(アダム・ドライバー)、ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ) |
公開 | 二〇一六年 |
製作国 | アメリカ、ドイツ、フランス |
動画 :『パターソン』予告編
