『十五才 学校Ⅳ』の詩、「浪人の詩」
山田洋次監督の名作『十五才 学校Ⅳ』。
不登校の中学生が主人公の映画で、ちょうど僕自身が不登校だった同じ年齢のときに観た作品でもある。
不登校の十五歳、中学三年生の川島大介は、あるとき家出を決行する。
屋久島に向かって一人旅をする大介が、旅の途中で出会う様々な人々との触れ合いのなかで学び、徐々に心に変化が生じていく。

旅の途中、大介は、長年部屋に閉じこもっている一人の青年と出会う。
青年は普段ほとんど喋ることがなかったものの、大介には心を開き、昔好きだった女の子のことなど色々と話してくれた。
そして、青年は大介との別れ際、プレゼントとしてパズルを贈る。
その裏には、一編の詩が書いてあった。それは、そのひきこもりの青年が書いた『浪人の詩』という詩だった。
浪人の詩
草原のど真ん中の一本道を
あてもなく浪人が歩いている
ほとんどの奴が馬に乗っても
浪人は歩いて草原を突っ切る
早く着くことなんか
目的じゃないんだ
雲より遅くてじゅうぶんさ
この星が浪人にくれるものを
見落としたくないんだ
葉っぱに残る朝露
流れる雲
小鳥の小さなつぶやきを
聞きのがしたくない
だから浪人は立ち止まる
そしてまた歩きはじめる
物静かで、どんなことを考えているのか言葉で表現することのできなかった青年が、密かに詩に綴っていた想い。
それは、この星が浪人にくれるものを見落とさずに生きたい、という願いであり意志だった。
青年の母親が、助手席に大介を乗せて走っている車中、大介がこの詩を朗読すると、母親が「あん子、そんげなこつ考えちょったと、おばさんちっとも気づかんかった」と涙をこぼす。
そのひきこもりの青年だけでなく、家族にとってもどうしていいか分からなかった日々のなかで、不登校で悩み、一人旅をする大介が、彼らのこわばった心をほんの少し和らげたのだった。
