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映画『サイドエフェクト』|感想・レビュー

映画『サイドエフェクト』|感想・レビュー

*文中に内容のネタバレを含む。

アメリカのうつの状況に関する記事によれば、薬の服用者が相当な数に上る(アメリカ人の十人に一人、三千万人が服用)とのこと。

このニュースをきっかけに色々と調べていくと、まさにうつと薬の副作用がテーマのアメリカの映画『サイドエフェクト』を見つけた。

最初、社会問題に切り込むドキュメンタリー的な告発映画だと思ったが、作品のコピーには「極上のサスペンス」というフレーズがある。

一体どういうことなのだろう、と思いながら、公開自体は二〇一三年と結構前の作品なので、Amazonのプライムビデオで観れるかなと探してみた。

しかし、残念ながら『サイドエフェクト』はプライムビデオ対象外で、普通にAmazonのレンタル配信で観ることにした。

ちなみに、Amazonのレンタル配信は、「一泊二日」や「二泊三日」といったDVDのレンタル方式と多少違い、配信から三十日以内に視聴を行うこと、また一度視聴を始めてから四十八時間後に自動でレンタルが終了する(期間内は繰り返し観れる)という仕組みになっている。

料金は微妙にばらつきがあり、『サイドエフェクト』はレンタル料金が四百円だった。

以下、映画の感想をざっくりと。

この作品について、「一体どんな映画なの?」と問われても、一言で言い表すのも、あらすじをまとめるのも大変な作品で、一度観ただけでは、どういう構造になっているのか把握しきれなかった。

映画の冒頭から中盤までは、エミリーがうつを患い、その薬として“アブリクサ”を服用し、副作用である夢遊病のなかで夫を殺す、という展開になる。

責任は患者にあるのか、それとも医師にあるのか。また、薬が蔓延し、製薬会社と医師の蜜月関係や巨大な金が動いていることを示唆するシーンも多く、社会派的なニュアンスも帯びている。

最近は日本もそうだが、アメリカでも薬が増えていったり安易な服用が問題になっている。

映画のなかでも、エミリーの主治医バンクスの妻が、バンクスからもらった錠剤をオレンジジュースと一緒に飲み、バンクスが、「みんな飲むよ、弁護士も音楽家も」と言うシーンがある。

製薬会社と医師の関係が根深いことを揶揄するようなシーンもあり、この問題提起自体は一つ底に流れている。

一方、物語は後半で急展開を迎える。

エミリーが、実は薬を飲んでいなかったこと。夢遊病に見せかけ、夫を殺していたこと。

彼女が以前通っていた病院の医師シーバートとレズビアンの関係で共犯だったこと。

この事件によってアブリクサの評判が落ちることでライバル会社の株価が上がり、そのライバル会社の株を購入していたことから、多額の利益を得たこと。

預け先はケイマン諸島などタックスヘイブンであることなど、もうあれもこれも全部が詰め込んでありパンクしそうだった。

ただ、もう一度見直すと、しっかり全てが伏線になり、終盤で回収されている。

たとえば、最初の自殺未遂のとき、狼狽した姿を駐車場の管理人に見せていたり、前任の担当医だったシーバートにバンクスが助言を求めに行った際、シーバートが彼に新薬を勧めたり、新薬がよかったと言ったというエミリーの同僚のジュリアが存在しなかったりと、一つ一つの伏線の回収が見事で、社会派の映画にとどまらず、見事にサスペンスとして完結する構成となっている。

加えて、日常にはびこる薬や副作用の多さ(SSRIを「“悲しい”という情報を遮断する薬」と説明)、製薬会社との関係性などを表現する日常シーン。

冒頭の建物が引きからアップになっていく映像とラストのアップから引きになっていく映像の対比や、自殺未遂の際に壁に書かれた「EXIT出口」という文字に向かって激突するシーン。

また、ラストのシーンでバンクスが迎えにいった小学生の息子が「聖ルカ学校」から出てくること(ルカは医者の守護聖人)など、意味ありげな象徴的演出も数多く見られ、細部にこだわりがあることを感じさせる

うつについて、エミリーが「毒の霧が立ち込めて心が麻痺する気分」と言ったり、「望んでいたことが全部、ある日突然現実になった。でも、それを現実だと信じ始めた瞬間、全部消えた。一瞬で未来を思い描くなった。うつってそういうものでしょ」と語るシーンも、なるほど、と思わせる表現だ。

その他にも、息子が怖い夢を見た、と言って起きてきたときに、バンクスが、「夢は悪いことばかりじゃないよ、ポールマッカートニーは夢で作曲したりね」と言ったのも、夢遊病と殺人がテーマの作品だけになにやら示唆的だった。

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一方で、個人的には、盛り込む題材が多い割に上映時間が一時間四十分ほどと短かったためか、割と突然の急展開で最後は全部自白で終わる、というのが置いていかれる感覚もあった。

作品全体の解釈としては、単純な勧善懲悪かんぜんちょうあくの復讐劇とは思えなかった。

結末が、エミリーを薬漬けにして廃人にする、というのはあまりに暗く、バンクス自体の金銭的な話なども含め、彼が必ずしも「正義」のひととしては描かれていないように思う。

そもそもエミリーも、決して「正常」だとは思えない。

なぜ夫を殺そうと思ったのか、その辺りの動機がよく分からず、「誰のせいでこうなったのか。問題や失望は全部夫のせいだった。夫さえいなくなれば全部よくなると思った」とだいぶ追い詰められていた様子もあり、それでは彼女は一体どうすればよかったのだろう、という気分にもなる。

彼女はほんとうに成敗されるべき純粋な「悪」だったのだろうか。

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もう一つ、これは深読みかもしれないが、ラストのほうで学校に息子を迎えに行ったバンクスと、息子が二人で歩いているシーンの映像で、しばらく息子の表情がアップで映し出される。

その息子の表情が、どこか生気のない眼差しで、バンクスがエミリーへの「罰」として行なった、イライラしたり反抗すればその都度異常とみなし、薬を与える、という態度と重なり、もしかしたらすでに息子も薬を服用しているのではないか、と感じさせるシーンだった。

善を規定し、悪を薬で矯正する、ということが必ずしも善として映っていないことが、この作品の深みに繋がっているような気がする。

作品情報

監督 スティーブン・ソダーバーグ
脚本 スコット・Z・バーンズ
メインキャスト バンクス(ジュード・ロウ)、エミリー(ルー二ー・マーラ)、シーバート(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)
公開 二〇一三年(アメリカ)、二〇一三年(日本) 上映時間 : 一時間四十六分
製作国 アメリカ

『サイドエフェクト』予告編

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桜のきれいな町に住んでいるピエロです。