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映画『サイドエフェクト』〜あらすじ、感想、ルーニー・マーラ、音楽〜

映画『サイドエフェクト』〜あらすじ、感想、ルーニー・マーラ、音楽〜

*文中に内容のネタバレを含みます。

『サイドエフェクト』とは

映画『サイドエフェクト』は、アメリカで二〇一三年に公開、日本でも二〇一三年に公開されたサイコ系サスペンス映画で、監督は『オーシャンズ11』で有名なスティーブン・ソダーバーグ。

俳優陣は、主演の精神科医バンクス役にジュード・ロウ。うつで通院し、夫を殺害するエミリー役にルーニー・マーラ。エミリーを以前診ていた女性医師であるシーバート役に、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ。

『サイドエフェクト』予告編

タイトルの「サイドエフェクト」というのは、日本語に翻訳すると「副作用」を意味し、タイトル通り、アメリカで蔓延する抗うつ剤と、その「副作用」。そして、その周辺で起きる一件の殺人事件が映画の基軸になる。

映画の作中、当初事件に関連したと疑われる新薬の“アブリクサ”以外に、SSRIやパキシルなど、実際に処方されている薬の名前も登場、俳優陣の演技も相まってリアリティを感じさせる作品となっている。

作品情報

監督 スティーブン・ソダーバーグ
脚本 スコット・Z・バーンズ
メインキャスト バンクス(ジュード・ロウ)、エミリー(ルー二ー・マーラ)、シーバート(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)
公開 二〇一三年(アメリカ)、二〇一三年(日本) 上映時間 : 一時間四十六分
製作国 アメリカ

あらすじ

登場人物

●ジョナサン・バンクス 
ニューヨーク在住の精神科医。妻と小学生の息子が一人。多くの患者を診る。エミリーの担当医でもあり、過去には女性患者が性的関係を匂わす遺書を残して自殺している。
●エミリー・テイラー
うつを患い、自殺未遂をしたことをきっかけにバンクスのもとに通うようになる。うつろな眼差しの奥に、ある秘密を抱える。夫マーティンは四年の服役を終え、出所。二十三歳で結婚し、現在二十八歳。
●ヴィクトリア・シーバート
エミリーが以前うつを患っていたときに通っていた担当の医師。バンクスにアブリクサの使用を勧める。
●マーティン・テイラー
エミリーの夫。インサイダー取引で捕まり、刑期を終えて出所。

うつを患っていたエミリーは、インサイダー取引で捕まった夫が出所してきたあと、一人で乗車していた自動車を壁に激突させ、自殺未遂を図る。

エミリーは、精神科に入院を勧められるも、夫は出所したばかりで仕事もなく四年ぶりに出所してすぐに、妻が精神病院に入院していたらショックを受ける、と拒否。代わりに精神科医バンクスのもとに通院するようになる。

バンクスは、過去にエミリーを診察していた女性医師のシーバートに意見を訪ねに行き、そこでシーバートは、色々な薬を与えたがどれも駄目だった、新薬の“アブリクサ”を試したらどうか、とバンクスに勧める。

エミリーも、今服用しているゾロフトはめまいがする、同僚のジュリアから新薬が効くと聞いたので試したい、と願い出ることから、服用を開始。ところが、このアブリクサの副作用でエミリーは夢遊病に悩まされる。

そして、夢遊病を発症中に夫を刺殺し、裁判に発展する。

裁判の争点は「副作用サイドエフェクト 」。副作用が原因なら、エミリーは無罪となる。その代わり薬を処方したバンクスが訴えられる可能性も出てくる。

エミリーは夫の母親と面会し、手記を手渡し、その手記を母がテレビで朗読。結果、薬の副作用のせいではないか、という疑いが世間に広まり、アブリクサやバンクスに対する不信感も高まる。

次第にバンクス夫婦の仲も喧嘩が増え、バンクス自身、徐々に精神を疲弊、薬を求めるようになっていく。

しかし、あるときバンクスがアブリクサを調べると、シーバートが過去に、アブリクサの多量摂取によって生じる睡眠時の異常行動にまつわる論文を書いている、ということを知る。

バンクスは、シーバートが一体なぜわざわざこの薬を勧めたのか、と疑念を抱く。また、事件の影響でアブリクサの会社サドラー社の株価が下落する一方で、ライバル会社であるアジライル社の株価が上昇していることも発見する。

こうしてバンクスは、エミリーとシーバートに対する疑いの眼差しを強め、独自に調査を進める。

そこから、バンクスの復讐劇が始まる。エミリーとシーバートの信頼関係を崩すための工作も企て、徐々に追い詰められたエミリーが、最後は投薬を恐れ、シーバートを裏切り、全てを白状する。

白状した内容。それは、夫のマーティンが逮捕され、鬱になり、シーバートの診察を受けるようになると、二人はレズビアン的な恋愛関係となる。そして、エミリーはシーバートから「詐病」を教わり、シーバートには、エミリーが夫から学んだ金融取引を伝授。もともとエミリーは、夫に対し殺意があり、この犯行を計画した、というものだった。

エミリーが盗聴器を忍ばせ、シーバートのもとに行くと、シーバートは儲けたお金はドバイとケイマン諸島の口座に預けたことや、話されると証券詐欺や殺人共謀に問われかねない、といった話をエミリーにし、外では警察が待機。シーバートは逮捕される。

これでバンクスの復讐劇は収まらず、裁判所の命令で通うエミリーに、副作用の強い薬を服用するよう指示。この指示に従わなければ施設に戻すと脅し、結局エミリーは入院施設に送られる。

バンクスは家族との仲が戻り、エミリーは廃人のような眼差しで、看護師から気分を聞かれると、「すごくいい」と呟く。

窓の外を眺め、ゆっくり映像が引き、アメリカの街並みが映し出される。

作品の感想

あるとき、アメリカでは、うつの薬の服用者が相当な数に上る(アメリカ人の十人に一人、三千万人が服用)という記事を読み、このニュースをきっかけに色々と調べていくと、まさにうつと薬の副作用がテーマのアメリカの映画『サイドエフェクト』を見つけた。

最初、社会問題に切り込むドキュメンタリー的な告発映画だと思ったが、作品のコピーには、「極上のサスペンス」というフレーズがある。

一体どういうことなのだろう、と思いながら作品を観た。以下、ざっくりとした映画の感想になる。

この作品について、「一体どんな映画なの?」と問われても、一言で言い表すのも、あらすじをまとめるのも大変な作品で、一度観ただけでは、どういう構造になっているのか把握しきれなかった。

映画の冒頭から中盤までは、エミリーがうつを患い、その薬として“アブリクサ”を服用し、副作用である夢遊病のなかで夫を殺す、という展開になる。

責任は患者にあるのか、それとも医師にあるのか。また、薬が蔓延し、製薬会社と医師の蜜月関係や巨大な金が動いていることを示唆するシーンも多く、社会派的なニュアンスも帯びている。

最近は日本もそうだが、アメリカでも薬が増えていったり安易な服用が問題になっている。

映画のなかでも、エミリーの主治医バンクスの妻が、バンクスからもらった錠剤をオレンジジュースと一緒に飲み、バンクスが、「みんな飲むよ、弁護士も音楽家も」と話すシーンがある。

製薬会社と医師の関係が根深いことを揶揄するようなシーンもあり、この問題提起自体は一つ底に流れている。

一方、物語は後半で急展開を迎える。

エミリーが、実は薬を飲んでいなかったこと。夢遊病に見せかけ、夫を殺していたこと。彼女が以前通っていた病院の医師シーバートとレズビアンの関係で共犯だったこと。

この事件によって、アブリクサの評判が落ちることでライバル会社の株価が上がり、そのライバル会社の株を購入していたことから、多額の利益を得たこと。

預け先はケイマン諸島などタックスヘイブンであることなど、もうあれもこれも全部が詰め込んであり、パンクしそうだった。

ただ、もう一度見直すと、しっかり全てが伏線になり、終盤で回収されている。

たとえば、最初の自殺未遂のとき、狼狽した姿を駐車場の管理人に見せていたり、前任の担当医だったシーバートにバンクスが助言を求めに行った際、シーバートが彼に新薬を勧めたり、新薬がよかったと言ったというエミリーの同僚のジュリアが存在しなかったりと、一つ一つの伏線の回収が見事で、社会派の映画にとどまらず、見事にサスペンスとして完結する構成となっている。

加えて、日常にはびこる薬や副作用の多さ(SSRIを、「“悲しい”という情報を遮断する薬」と説明)、製薬会社との関係性などを表現する日常のシーン。

冒頭の建物が引きからアップになっていく映像と、ラストのアップから引きになっていく映像の対比や、自殺未遂の際に壁に書かれた「EXIT出口」という文字に向かって激突するシーン。

また、ラストのシーンでバンクスが迎えにいった小学生の息子が「聖ルカ学校」から出てくること(ルカは医者の守護聖人)など、象徴的演出も数多く見られ、細部にまでこだわりがある。

うつに関し、エミリーが、「毒の霧が立ち込めて心が麻痺する気分」と言ったり、「望んでいたことが全部、ある日突然現実になった。でも、それを現実だと信じ始めた瞬間、全部消えた。一瞬で未来を思い描くなった。うつってそういうものでしょ」と語るシーンも、リアリティのある表現だと思う。

その他にも、息子が怖い夢を見た、と起きてきたときに、バンクスが、「夢は悪いことばかりじゃないよ、ポールマッカートニーは夢で作曲したりね」と言ったのも、夢遊病と殺人がテーマの作品だけに、示唆的でもある。

一方で、個人的には、盛り込む題材が多い割に、上映時間が一時間四十分ほどと短かったためか、割と突然の急展開で、最後は全部自白で終わる、という演出が、観ている側としては置いていかれる感覚もあった。

作品全体の解釈としては、単純な勧善懲悪かんぜんちょうあくの復讐劇とは思えなかった。

結末が、エミリーを薬漬けにして廃人にする、というのはあまりに暗く、バンクス自体の金銭的な話なども含め、彼が、必ずしも「正義」のひととしては描かれていないように思う。

そもそもエミリーも、決して「正常」だとは思えない。

なぜ夫を殺そうと思ったのか、その辺りの動機がよく分からず、「誰のせいでこうなったのか。問題や失望は全部夫のせいだった。夫さえいなくなれば全部よくなると思った」と、だいぶ追い詰められていた様子もあり、それでは、彼女は一体どうすればよかったのだろう、という気分にもなる。

彼女はほんとうに成敗されるべき純粋な「悪」だったのだろうか。

もう一つ、これは深読みかもしれないが、ラストのほうで、学校に息子を迎えに行ったバンクスと、息子が二人で歩いているシーンの映像で、しばらく息子の表情がアップで映し出される。

その息子の表情が、どこか生気のない眼差しで、バンクスがエミリーへの「罰」として行なった、イライラしたり反抗すればその都度異常とみなし、薬を与える、という態度と重なり、もしかしたらすでに息子も薬を服用しているのではないか、と感じさせるシーンでもあった。

善を規定し、悪を薬で矯正する、ということが必ずしも善として映っていないことが、この作品の深みに繋がっているような気がする。

エミリー役、女優ルーニー・マーラの演技力

物語の構成や細かな演出、実際の薬の名前が数多く登場するといった設定以外にも、俳優陣の素晴らしい演技力も、この作品のリアリティを高めている。

主演の精神科医バンクス役に、ジュード・ロウ。うつの患者として薬を服用し、“副作用”によって夫を刺殺するエミリー・テイラー役にルーニー・マーラ。そのエミリーを以前担当していた女医のシーバート役にキャサリン・ゼタ=ジョーンズ。

特に圧巻の演技力だったのが、アメリカ人女優のルーニー・マーラだ。

『サイドエフェクト』

うつを患っているというエミリーは、新薬アブリクサの副作用で夢遊病となり、その症状の最中に夫を刺殺し、裁判に発展する。

しかし、後半明らかになるのは、この夢遊病というのが「詐病(嘘)」だった、という事実だ。

そもそも、“うつを患いながら薬を服用している演技”自体が難しいのに、ルーニー・マーラは、さらにもう一枚かぶせた、“心の病の演技をしている演技”をしていたことになる。

どこか危うく、冷たい美人の雰囲気を湛えたルーニー・マーラのうつろな表情は、劇中に登場する、「毒の霧が心に立ち込めて麻痺するような気分」という台詞通りで、とても「演技」とは思えない切迫感がある。

エミリーは、前担当の精神科医シーバートと実はレズビアンの関係にあり、二人は共謀していたことも発覚する。

気になったのは、物語のなかでシーバートにうつや詐病の手ほどきを受けたとは言え、うつの演技が巧みすぎること。

これが果たして「リアリティ」があると、(逆に)言えるかどうか。

ただ、難しいのは、エミリーは実際に過去にうつを患い、病院に通っていたこと。そして、夫(夫は四年前にインサイダー取引で捕まり、逮捕がきっかけでエミリーはうつになり、流産もする)が全て悪いのだ、夫さえいなくなれば、と殺害を計画したこと。

これは「本当」なのだと思う。

だから、うつの演技をしていたのか、それとも、ただ薬を飲んだふりをしていただけなのか、この辺りの境目がとても曖昧で微妙なニュアンスだった。

終盤、本心でバンクスに語るシーンでは、「望んでいたことが全部、ある日突然現実になった。でも、それを現実だと信じ始めた瞬間、全部消えた。一瞬で未来を思い描くなった。うつってそういうものでしょ」と語り、思い悩んでいたこと自体は真実のこととして告白している。

エミリー本人は、詐病という言葉を使っていたが、果たしてほんとうに詐病なのか。

そもそも、この映画に健全な人物は存在したのか(見るかぎり、真っ当に思えるのは、夫マーティンの母親くらいだった気がする)。

いずれにせよ、その境界線の曖昧な状況の演技をこなしたルーニー・マーラは純粋に「凄い」と思う。

 

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ルーニー・マーラ、本名パトリシア・ルーニー・マーラは、一九八五年生まれで、アメリカのニューヨーク出身の女優である。

高校卒業後に南米を四ヶ月間旅し、その後、ニューヨーク大学で心理学を学ぶ。

彼女の代表作としては、『ソーシャルネットワーク』や『ドラゴンタトゥーの女』があり、『ソーシャルネットワーク』は、主人公のザッカーバーグの元恋人エリカ・オルブライト役を、『ドラゴンタトゥーの女』ではドラゴンのタトゥーをした天才ハッカーのリスベット役を熱演している。

Facebookの創始者マーク・ザッカーバーグを描いた『ソーシャルネットワーク』は、好きな映画の一つだが、あの恋人役の女優が、『サイドエフェクト』のエミリーだとは気づかなかった。

それくらい「別人物」であり、素晴らしい演技力だった。

動画 : カウンセリングで夫とのなれそめをバンクスに語っているエミリー(『サイドエフェクト』より)

動画 : 突然不安定になってバンクスのもとに駆け込んできたエミリー(『サイドエフェクト』より)

音楽

この『サイドエフェクト』の音楽は、『ショーシャンクの空に』や『グリーンマイル』のサウンドトラックも手がけ、数多くの映画音楽に携わってきたトーマス・ニューマン(一九五五年生まれ、アメリカ出身)が担当している。

トーマス・ニューマンは、ハンガリー系ユダヤ人で、映画音楽の作家を多数輩出している「ニューマンファミリー」の一員である。

この作品では、トーマス・ニューマンが全ての劇中音楽を作曲。サイコ系のサスペンスにぴったりの、鋭利で冷たい旋律の曲がラインナップされている。

こういう静かな雰囲気のサントラは、日常的なBGMとしても適しているし、冬の夜に一人で作業するのにもおすすめだと思う。

Side Effects – Very Sick Girl (Main Title) (Soundtrack OST)

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