映画『ミッドナイトインパリ』のあらすじと感想
きっかけ
*この記事は映画のネタバレを含む。
以前、ゴッホの『星月夜』の空が描かれたパリの街を歩く主人公の男のポスターを近所のレンタルDVDショップで見かけた。
その絵がなんとなく記憶の片隅に残り、以来気になっていたウディ・アレン監督の二〇一一年公開作品『ミッドナイトインパリ』。
レビューもよく、観たいなと思いつつ、先延ばしにし、最近ゴッホのドキュメンタリーを観たのがきっかけで思い立ち、ある晩、一切のネタバレなし、前知識なしで夜ひとりで観賞することにした。
そもそも、ウディアレンの作品もほとんど観たことがなかったので、コメディタッチなのかな、といった感覚で観はじめたのだが、特に迷子になることもなく、最後までのんびりと楽しむことができた。
フィンセント・ファン・ゴッホ『星月夜』 1889年
ミッドナイトインパリとは〜意味や作品情報〜
ウディアレン監督作品で二〇一一年(日本では二〇一二年)に公開された『ミッドナイトインパリ』。
タイトルの意味は、文字通り、真夜中のパリ。芸術の街パリを舞台に監督の趣味嗜好もふんだんに盛り込まれたおしゃれな作品。
アメリカでの評価も高く、批評家などレビューも高評価。
日本でも、口コミやレビューの点数は相当高評価が並び、ウディアレンは『ミッドナイトインパリ』の監督と脚本の両方を務め、この作品でアカデミー賞の脚本賞を受賞している。
現代に住むアメリカ人脚本家の主人公ギルが、婚約者とその家族とともに訪れた旅先のパリで過去に「タイムスリップ」し、ピカソやマン・レイ、ヘミングウェイやフィッツジェラルドなど、数多くの昔の画家や作家など偉人たちと出会い、彼らの言葉をもとに考えを深めていく。
実際のエピソードに基づいたシーンも描かれ、知っているといっそう面白いと思う。
あと、てっきりポスターに『星月夜』が描かれていたのでゴッホも出てくるかと思ったのだが、同時代にタイムスリップした際に出てくるのは、画家のロートレックにドガ、ゴーギャンで、ゴッホは登場しない。
この映画に描かれる「黄金時代(ひとは常に過去の黄金時代に憧れる、というのが映画のテーマ)」のパリの世界観と、孤独と狂気の画家ゴッホというのはちょっと合わなかったのかもしれない。
ちなみに、主人公のギルは、若い頃のウディ・アレンに似ているようで、演技もわざと似せたような仕草や喋り方をしているようだ。
作品情報
監督 | ウディ・アレン |
脚本 | ウディ・アレン |
メインキャスト | ギル・ペンダー(オーウェン・ウィルソン)、イネス(レイチェル・マクアダムス) |
公開 | スペイン、アメリカ(二〇一一年)、日本(二〇一二年) |
製作国 | アメリカ |
『ミッドナイトインパリ』予告編
あらすじや詳細
●ギル・ベンダー
ハリウッドの脚本家だが、小説家を目指して作品を執筆中。一九二〇年代のパリや、当時の芸術家たちに憧れる。パリの雨が好き。
●イネス
ギルの婚約者。金持ちの両親がいる。脚本家をやめ、小説家を目指すというギルに不満を抱いている。
主人公のギル・ベンダーは、ハリウッドの脚本家で、そのまま脚本を続けていれば生活に困ることはなかったものの、小説を書きたい、と処女作執筆に苦闘する。
執筆中の小説は、懐かしいものを販売する〈ノスタルジーショップ〉で働く店員の物語。
ギルは、その執筆の最中、婚約者のイネスと、イネスの両親と四人でパリを訪れる。
花の都パリは、ギルにとって憧れの世界だったが、偶然居合わせたイネスの友人でインテリのポールと、ポールの彼女も交え、一緒にパリを観光し、教養をひけらかすポールの態度にギルは嫌気が差す。
ある夜、ワインパーティーの帰り、ダンスの誘いを断って夜道を一人で帰るギルは、道に迷い、日付が変わる鐘とともに迎えにきた車に乗る。
すると、彼が憧れた一九二〇年代のパリにタイムスリップする。
一九二〇年代の世界で、ギルは、作家のスコット・フィッツジェラルドと妻ゼルダ、ヘミングウェイ、画家のピカソ、詩人で美術収集家でもあるガートルート・スタイン、またダリやブニュエル、マン・レイと言ったシュルレアリストたちと出会う。
ピカソの愛人であるアドリアナに恋をしたギルは、現代の古本屋でアドリアナの手記を見つける。
手記のなかには、アドリアナもまた自分に恋をし、彼女がギルからピアスを贈られ、二人は愛し合った、という記述を発見する。

ギルはすぐにピアスを探し、再びタイムスリップした際、アドリアナにプレゼントする。
二人がキスをすると、馬車が現れ、馬車に乗った二人は、今度はパリが華やかだったベルエポック時代の一八九〇年代にタイムスリップする。
アドリアナは、このベルエポック時代に憧れていた。しかし、その時代に出会った画家のロートレックやゴーギャン、ドガたちもまたルネサンス期に憧れていると語り、こうして人は誰でも過去に憧れるのだとギルは気づく。
アドリアナはベルエポック時代に残ると言い、ギルは一度一九二〇年代に戻る。
ギルの執筆中の小説を読んだヘミングウェイに、「主人公の婚約者(イネズがモデル)が、教養ぶった男との浮気を気づけないのはおかしい」と指摘され、現代に戻った直後、イネズに浮気しているはずだ(「ヘミングウェイの言う通りだ」)と詰め寄る。
イネズは浮気を告白。もともと性格や趣味が合わないことも多かったことから、ギルはパリに残ると言い、彼女に別れを告げる。
ギルが宿泊先を出て夜景の美しいパリを散歩していると、以前骨董品屋で知り合った女性と偶然再会。
雨が降り出し、彼女は「パリは雨が一番ステキなの」とギルが以前から思っていたことと重なり、二人で雨の降る夜の街を歩いていく。
感想
純粋に楽しい作品だった。
毒にも薬にもならない、楽しい作品。これが素直な感想かなと思う。
色々な過去の偉人も登場し、当時のパリや社交界の雰囲気も感じることができるので、そういう点では面白いものの、学びや深みというのも薄い。
婚約者と別れるし、よほど色んな画家の名前を知っている恋人同士でないかぎり、カップル向けの映画ではないかもしれない。
だからと言って、一人で観るにもあまりに「毒にも薬にもならない作品」なので、どのタイミングで観るのが正解なんだろうと悩む。
強いて言うなら、なんにも考えずにちょっと違う世界、ちょっと違う時代の話に浸りたいときにおすすめの映画だと思う。

